2022年3月2日水曜日

昔語り


  誰もが、その人に注目していた。

 老いも若きも男も女も、誰もがその人の名を呼び、その人に拠っていた。だがその人は、すでに髪も真っ白く、足を痛めて動作も緩慢、老いた体を引き摺る様に自分を呼ぶ声に懸命に応えておられる。


みんな、この人がいなかったら生きていけないんじゃないだろうか


 家族での入信と前後して、老いた肉親の死を一回だけでなく間近に体験していた自分には、その人の老いた姿から、どうしても別離の時期が近い事を予期せざるを得なかった。

月並みな表現しかできないのが申し訳ないが、尊敬に値する立派な見事な方の様である。きっと多くの人々に慕われるだけの行いを長年積み重ねてこられたのだろう。それだけにこの人の喪失が、このコミュニティにもたらす衝撃と混乱の渦の大きさの計り知れなさに、末端の一般信徒に過ぎない身の自分が、


この人がいなくなったら、この教団はどうなってしまうのだろう


などと真剣に心配していたのだから……


その心配は現実のものとなった。


平成元年七月十九日、開祖伊藤真乗遷化。伊藤真聰苑主の真の後継者としての苦難の道のりが始まった。


南無真如

2022年3月1日火曜日

これからの「在り方」②-2022真如特別法要~法前供

 よりによって、今年のこんな日に…

こんな事が起こるなんて…

 こんな事が起こるなんて、十年前のあの日には思いもよらなかった。ただ「心を残してきました」なんておっしゃっていたとの伝聞があったので、苑主代表には何か予感があったのかもしれない。事実、このわずか二年後の2014年、プーチン大統領によるクリミア半島のロシア併合が行われている。そして昨年後半からの不穏な動きが現実のものとなったのが、今年の真如特別法要(2/24)だったのだ。2022年二月の最後の週末、ロシアのウクライナ侵攻に国際社会は驚愕と反発を強めつつ、事態収拾の方途の模索が始まった。

 真如苑は、本日(2/28)の法前供において、戦乱の早期鎮静を祈念し、人道・医療への緊急援助として2000万円の拠出を発表した。

 最初に真如特別法要を紹介した時、自分はこれを日本の天皇制との関連でとらえていたのだが、昨年の二月下旬に語られた、苑主代表が夢で開祖と共に法要の修法を行い以心伝心で指導を承けたという話を聞くに、この法要の持つであろう潜在的な意味合いが一つ見えたような気がする。開祖の最後の法要が昭和天皇の追悼だったのは、確かに間違いのない事実である。開祖はこの真如三昧耶流創立の過程で、真言密流相承にあたり、日本の霊的伝統にその身を深く鎮めるが如くに関わらせたのでは。だからこそ後継者たる苑主代表は、開祖を土台に世界に飛躍する事ができたとは言えないだろうか。その上で、文字通り世界平和を目指した開祖が、苑主に伝えようとした核心が、この真如特別法要に内包されているのかもしれない。

 思えば、開祖伊藤真乗の遷化と期を一にして、ベルリンの壁崩壊~東西ドイツ統一・冷戦終結と、伊藤真聰苑主の在位が始まってから三十年余り、昨年行われた総本部の新第二精舎起工式より、教団後継・鳥飼尚之氏の姿が頻繁に見られるようになり、昨年の今頃の苑主代表の御不例など思い起こすに、緩やかな教苑の世代交代の進行と同時に、2020米大統領選や、香港等における民主主義的自由と国家の権威の対立、などに観られるように、まるで二十世紀初頭のスペイン風邪の世界的流行のような新型コロナのパンデミックを経て、世界もまた新たな分断や昏迷、そして戦乱?の時代に入っていくかのようにも見える。

 このような新たな社会環境に、真如苑も無関係ではいられない。中国関係への伝道への注意が教団内部で公式に出されているし、その他教団支部を置く地域でも政情の不安定さにパンデミックが絡んで騒然とした様子が見える。

 地球上には、古代インドや現代自由主義諸国のような、自由な思想や表現が許される地域ばかりではない。歴史を紐解けば、空海が遣唐使船で渡った当時、中国は巨大な律令制国家・唐の爛熟の時代にあり、当時の祖師達は、密教の反社会的と見られかねない要素の取扱いに細心の注意が求められたらしい。

密教

 真如苑が真に世界的普遍宗教を目指すなら、権威主義的国家と向き合い、そういった国の人々と、どのように接していくのか、避けて通る事はできない問題だろう。

南無真如