「法住寺殿では派手にやったな。盛遠」
と、頼政は柱に縛られている行者に声をかけた。
「縄を解いて下がれ」と頼政は供の者に命じると、
「知らせを聞いた時はこちらの肝が冷えたわ。」
「なんの、芝居の相方としてあれほど頼もしいお方
はおらなんだ。流石、今様狂いと呼ばれ諸芸能に
深く通じておられるだけの事はありまするぞ。」
と、肩や腕をほぐしながら行者は応じた。
「正に阿吽の呼吸といういうべきですな。」
「天性不当の物狂いと評判だぞ。ふふふ」
「わっははははっ」豪快に笑うと行者は真顔になり
「では予ての手筈通りに?。」
「うむ、伊豆に配流という事に相成った。」
すでに根回しが済んでいる。平治の乱で生き残った
源氏の嫡流を護る事が、平家全盛の世の先の光明に
途をつけるだろう。
「伊豆は物成りが貧しい土地故、苦労をかけるが…」
「なんの、それがしは神護寺再興という大望ある身、
み仏のご加護がない訳はありませぬ。それに
流す役も、流される先も頼政さまのご一族の
手の内故、追われる心配はありませんぞ。」
今ここで、源氏の嫡流を盛り立てて行くことが
自らの大願の実現と、世の光明を見出す事に
繋がると、盛遠は何故か確信していた。
東国で修行していた事もあり地の理も心得て
いる。
「頼朝には顕幽両面の助けが必要じゃ。」
頼政は言った。
「よろしく頼みますぞ。文覚殿」
承安三年のある日。
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