『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
童子は、もはや、子供の姿をしていなかった。
小さいなりに、鬼の姿をし、しゃべるたびにその口からは青い炎がめろめろと吐き出されてく
る。
鬼は、切り株から離れて晴明に向かって襲いかかろうとした。
「晴明!」
博雅が、松明を捨て、腰の太刀を引き抜いたその時_
晴明は、自分に向かって来ようとした鬼に右手の人差し指と中指を向け、宙をその指で切り
ながら、
「オン・テイハ・ヤクシャ・バンダ・ハ・ハ・ハ・ソワカ」
真言を唱えた。
”薬叉天に帰命す。縛せ縛せ。ハハハ。あなかしこ”
すると、ふいに、鬼が動きを止めた。
「そ、それは、おまえ・・・・・・・」
「庚申(こうしん)の真言さ」
晴明が言い終えぬうちに、くねくねと鬼の身体がたたまれて、ごろんと草の上に転がった。
「むう」
博雅が、太刀を手にして駆け寄ってみれば、それは木彫りの邪鬼であった。
ちょうど、広目天の足に踏まれているように、身体をふたつに折って、そこに伏せになってい
た。
「いや、もとはその切り株に繋がっていたものだからな。その切り株から離れてもらわねば、こ
ちらも方法がないところだった・・・・・・」
「つまり、これが、玄徳が彫っていた広目天の邪鬼なのだな」
「そういうことだ」
「今の咒は何だ?」
「大和真言さ」
「大和真言?」
「真言はもともと天竺でできたものなのだが、この真言は、大和の国で造られたものなのだよ。
真言宗の仏師が、四天王を彫る時には、この、庚申の真言を唱えるのだよ」
「そういうことか」
「そういうことだ」
そう言って、晴明は、ふと、横の切り株に眼をやった。
「ふうむ」
その切り株に歩み寄り、晴明は、その端の木肌に触れた。
「どうした?」
「博雅よ。これはまだ生きているぞ」
「生きてる?」
「うむ。他の部分は、ほとんど腐れ果てて死んでいるが、この部分だけは、まだ、微かながら生
きている。この下に、よほど強い根があると見える」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
(夢枕獏著『陰陽師・飛天ノ巻』収録「天邪鬼」より)
さる1/25。真如苑の地霊系護法善神である笠法稲荷大明神に
新たに真言が制定された旨発表を聞いて思い出したのが上記。
田中公明氏が教団施設内でオンエアのVTRで、開祖謹刻の
涅槃像をして阿闍梨が自ら尊崇する尊格を自由に選べる事を
「阿闍梨の意楽(いぎょう)」と述べていたが、苑主代表が新たな真言を造る事もその一つなのだろう。
だがこの『天邪鬼』、改めて読んでみると、新たな真言の創造
だけでなく、四天王、初版が1995年(つまり丁度20年前=
阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件の年)等、本年の教苑を
意識させるようなモチーフが妙に目に付く。上記引用した中の
強い根も地の力を想像させる。
陰陽師 飛天ノ巻 |
苑主瑞教を聞きつつこんな事を…、我ながら呆れたものだ。
南無真如
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